「石膏美人」(横溝正史)

由利・三津木の事件簿02

由利・三津木がコンビ結成・第1事件

「石膏美人」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成1」)
 柏書房

「由利・三津木探偵小説集成1」

「石膏美人」(横溝正史)
(「悪魔の設計図」)角川文庫

「悪魔の設計図」角川文庫

新日報社記者・三津木俊助が
車で社から出ようとしたとき、
一台のトラックが
ぶつかってきた。
その荷台に積んであった
白木の箱から飛び出した
一本の腕。
三津木が調べると、
それは人形の腕だった。しかし、
その人形の顔はなんと…。

なんと三津木の恋人の顔と
そっくりだったのですから大変です。
横溝正史由利・三津木シリーズ
コンビ結成第1作にあたる本作は、
のっけから事件の匂いがぷんぷん、
探偵役の三津木俊助が
いきなり事件の当事者として
巻き込まれてしまうのです。
二人が殺され、
三津木の恋人にも危険が迫ります。

【事件簿02 「石膏美人」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社記者。
等々力警部…警視庁警部。
絃次郎…由利家の使用人。
お直…由利家の老女中。
〔事件関係者〕
一柳慎蔵
…大学教授。数日間の様子がおかしい。
一柳瞳
…慎蔵の娘。俊助の婚約者。
山口
…一柳家の書生。
藤巻伍六
…大学教授。一柳慎蔵とは親友どうし。
 旧宅は一柳家の裏手で
 庭続きになっていた。
お静
…伍六の妻。故人。
藤巻洋一
…伍六の長男。美術家志望。
 母・静の姿で、遺体で発見される。
藤巻昭二
…伍六の次男。唖。読唇術ができる。
 何者かに殺害される。
お紋
…藤巻家の老女中。
木村
…藤巻家の書生。
磯岡今朝治
…中学生。探偵小説好き。
 事件の一端を目撃し、
 自ら調べようとする。
ヘンリー松崎
…極東サーカス団員。軽業師。佝瘻。
六造
…極東サーカスに最近雇われた男。

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今日のオススメ!

本作品の読みどころ①
由利・三津木がコンビ結成・第1事件

実は本作品が由利・三津木コンビの
第一作です。
そのため由利麟太郎の人物紹介も
丁寧になされています。
ただし、強引な登場の仕方です。
あらかじめ犯行を予見したかのような、
まさかの潜入捜査。
それもなぜここに?という
きわめて無茶な設定です。
おそらく別件で調べていた最中に
たまたま遭遇したのだと
思いたいのですが、
そうした説明は省略されていて、
かなり強引な
登場の仕方となっているのです。
これもご愛敬でしょう。

なお、本作「石膏美人」と「百蠟変化」
どちらが由利・三津木コンビの
第1作かという問題があるのですが、
両者とも昭和11年の作品です。
「石膏美人」は5月から8月にかけて、
「百蠟変化」は4月から12月にかけての
連載であり、発表は「百蠟変化」が早く、
完結は「石膏美人」が先という、
判断の難しい状況です。
しかしながら
由利の経歴を詳しく説明している上、
警察を退いて以降、
数年間行方知れずとなっていた
由利との再会を喜ぶ三津木の姿が
描かれている以上、
作品舞台の時系列としては
こちらが先ということになります。

本作品の読みどころ②
ジュヴナイルのような多彩な変化

謎のせむし男、
蝋人形に隠された秘密、
怪しげな腹話術と読唇術、
廃屋の節穴からのぞく殺人現場、
最先端赤外線撮影機による殺人の記録、
秘密通路のある二つの屋敷、
替え玉による目くらまし、
大型の壺から躍り出る怪人、
少年助手の活躍、等々、
中編小説でありながら
盛りだくさんの内容です。
知らずに読めば
「これはジュヴナイルか?
それも江戸川乱歩の!」と
唸ること間違いなしです。

本作品が発表された昭和11年は、
江戸川乱歩「少年探偵団」を発表し、
ジュヴナイルの可能性を
模索していたあたりです。
盟友である横溝がその影響を
受けた可能性は十分あります。
乱歩が少年向け作品に
ある程度限定した手法を、
横溝は大胆にも一般作品において
ふんだんに盛り込んだのです。
このジュヴナイル的展開が、
戦前の横溝作品、
特に由利・三津木シリーズに
色濃く現れていくのです。

本作品の読みどころ③
限定的だが絞りきれない犯人像

登場人物は決して多くありません。
従って犯人は限定的であり、
どう考えても二人の博士のうちの
どちらかなのです。
でも、なかなか絞り込めません。
どちらも怪しいのですが、
理由は結末で明らかにされます。

その背景に隠されているのは、
横溝得意のどろどろした血縁関係の
設定です。
やはり殺人の動機は、どろどろとした
血縁関係にあったのです。
と思わせて、最後に
大どんでん返しが控えています。
このあたりはかなり練られた
シチュエーションといえるでしょう。
ぜひ読んで確かめてください。

当初、「妖魂」の題で発表され、
昭和23年に「呪いの痣」として改訂、
さらに改題されて
現在の形となった本作品。
若い人が読めば噴飯ものなのですが、
昭和初期のミステリはこのように
何でもありの世界だったのです。
現代に引き寄せたりせずに、
昭和初期のエンターテインメントを
心ゆくまで愉しみましょう。

(2018.9.8)

〔追記〕
本作品を収録した
角川文庫刊「悪魔の設計図」は、
長きにわたって絶版の憂き目に遭い、
紙媒体で読むことが叶いませんでした。
しかしながら柏書房より
「由利・三津木探偵小説集成」が
刊行され、その第1巻に
めでたく収録されました。
アイキャッチ画像を
そちらに変更しています。
「悪魔の設計図」も、杉本一文表紙で
早く復刊して欲しいと願っています。

(2019.1.5)

〔追記〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2023.10.10)

〔角川文庫「悪魔の設計図」〕
悪魔の設計図
石膏美人
獣人

〔「由利・三津木探偵小説集成1」〕
獣人
白蠟変化
石膏美人
蜘蛛と百合
猫と蠟人形
真珠郎
付録①六人社版「真珠郎」序文ほか
付録②名作物語「真珠郎」
編者解説(日下三蔵)

〔由利・三津木シリーズ〕

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〔「由利・三津木探偵小説集成」〕

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